Project SOLA

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天地明察から時代を読み解く #projectsola

      2017/04/11

以前にもレビューを書いたが、【天地明察】が非常に面白いのでもう少し深掘りしてみたいと思う。

新しい時代認識を与えてくれる一冊【天地明察】#projectsola

今回は原作の小説を読んでみた感想。



江戸時代と現代の共通点

江戸時代と現代には、非常によく似た共通点がある。それは『それまで主だった人々の仕事が失われた』という部分。現代においては、第一次産業から第二次産業、そしてこれからはAIによって失われていくと言われている知的産業の人々。これが江戸時代においては、それまでの戦国時代で大活躍していた『武士』という存在である。

この様子が、物語の中でも語られている。

形骸化する武士の役割

泰平の世では合戦が無くなるため、武士たちは算術を学びながらも、傘を貼ったり畑をやったり鈴虫を飼う「手職の日」があったりする。……ブリーダーまで存在していたのだ。そして長い江戸時代の歴史の中では、次第に合戦を知らない武士が増えていき、形骸化する。

徳川家光が武家諸法度において制度化したため、それまでの任意に求められていた上京から、次第に儀礼的なものに変わり、参勤交代はパレードと化す。場内では武力の制御のため、儀礼的服装でなければ認められず、もはや刀は肩書きの象徴となってしまう。

簡単に言えば、必要の無い戦しか出来ない武士は、「タダ飯食らいの穀潰し」なのだ。

武士=ニート?

なので幕府も、次第にそんな武士たちを世の中に役立てようとする。……というか、働かせようとする。まるでニートだ。

武士をそれまでの警察や傭兵のような存在から、民の生活安定を行うための存在へと変化させたいと願い、幕府の老中は、物語中にて算術に秀でた主人公を改暦の儀へと任ずる。

社会を武力統治をしている間は、常に暴力によって治安が乱される可能性があるため、幕府は下克上を消し去るように様々な工夫をし、大量の経済政策を行ってきた。……それは言わば、現代で言う公共投資や補助金である。

幕府の経済面は衰退の一途

しかし、徳川幕府が必死で貯めてきた大判小判の埋蔵金六百万両も、じきに尽きる時が来る。それを憂いてなんとかしようと頭を悩ませていたのだ。と同時に、金はあっても物がまだ足りない時代。度重なる天災や飢饉により、民草の生活は不安定だった。そして飢饉のたびに何度も一揆が起こる。

一揆が起こるのは何故か。それは、民のために蓄える方法を為政者たちが創出して来なかったからである。つまりは、「一揆は君主の名折れだ」として、会津を始めとした名君たちは、食料の備蓄方法を考えるのであった。

江戸という社会の発展

何度か起きた江戸の大火によって天守閣が焼け落ち、その後「武力の象徴である天守閣は必要ない、それよりも生活の安定を考えるべきである」と、天守閣は再建されなかった。そして風呂は離れに建築されるようになり、玉川の上水などの灌漑設備が行われた。

この際、水道工事や金銀などの鉱山の開発において、測量技術が必要とされ、それには算術が非常に重要となる。今で言えば、プログラミングのようなものだろうか。この頃から少しずつ経済の活性化に重点が置かれるようになる。何故なら、収穫した米を換金して手形に交換し、それを担保に金を貸す札差したちが武士の給金を握っていたからだ。今で言うウォール街のような感じかもしれない。

算術の隆盛

なので街には算術塾が開かれ、問題の出し合いのための算額絵馬が奉納されるほどになった。インターネットの2chの先駆けのようである。そして村娘までが算術を学ぶようになるほど、算術が一般化して普及し始めるようになっていく。……もう武士たちには、軍事は必要ないのだ。

この頃に行われた政策がまた興味深い。



江戸時代のマニフェスト

火事が起きた場合、米が皆焼けてしまっては元も子もないため、民の持ち出し自由としたり、江戸が火事になった際には、参勤交代に来ていた諸藩を国元に帰らせて人口操作を行ったり……これは今で言う『地方創生』だろうか。もしかしたら現政権は、参勤交代政策を参考にしているのでは無かろうか……?

そして社倉と呼ばれるシェアリング米蔵を作り、収穫の一部を貯蓄しておいて、それを貸し与えて利息を得、弱者支援へと回す。……この名残が備蓄米なのか?

武士の衰退と抵抗勢力

そして、殉死追い腹の禁止・大名証人の廃止・末期養子の禁止の緩和など、次々と武士の特権を無くしていくような政策を打ち出していく。

だがこれは当然、世界の慣性の法則に従って、逆のベクトルも生まれてくる。武士をひっくり返そうとする存在への抵抗だ。長い安定の歴史があると、そこに生まれてくる既得権益があり、頑なに変化に抵抗する。

既得権益とイノベーターたちの戦い

賀茂家などの鬼神呪術を扱う陰陽師たちが暦などを独占化し、古い伝統を誇り、神秘化させたまま守っていた。今で言う「ここではこういう文化だから」「これがこの世界の常識だから」……みたいな感じだろうか。

そして当時はもちろん世襲制の社会だ。いつだってこういう人々は新しく外から入ってくる人間を快く思わない。自分たちの技術が陳腐化して時代に合わなくなっているにもかかわらず、新しい技術を見下して嘲笑するのだ。

「武士如きが天を算術で明らかにするなどとは、全くもってけしからん!」

……というあたりか?

天地明察においては、そうした既得権益との戦いが非常にリアリティがあって面白い。簡単に言うと……「根回しを行う」のだ。

天地明察流イノベーションの起こし方

まず、当時の暦は天のものであった。天とはつまり天皇陛下であり、北極星、天元、北辰大帝の象徴であるとも言われるほど、絶対的なものである。なのに、時と方角を天皇と朝廷から奪い、将軍のものとするのだ。余程気を付けなければ、命を奪われる。……いついかなる時も、滅ぶべきは逆賊だからだ。

しかし暦というのは様々な経済活動に関わっているため、それを扱うことができれば莫大なプラットフォームが手に入る。そのことを知っていた主人公は、頒暦で財を手に入れる事ができると、貪欲な流通屋を抑えることにする。

そして、改暦を行うとなればそれは文字通り歴史に名を残すという物凄い功績を手に入れることになるので、陰陽師内で対立する家系へと弟子入りし、功績を公家である土御門家へと譲る。

あらゆる布石を打ち、人の定石をなぞる

さらには朱印状という権力も使い、民を味方にするためのエンターテイメントもプラスさせて、碁打ちらしく、考えられる全ての布石を打って改暦の儀へと挑むのだ。……暦がテーマの美人画まで登場するという江戸時代のサブカル文化は、非常に現代と似ている。

『天地の定石に辿り着くために、人の定石を守る』

この言葉で表されている姿勢は、「使える手段は何でも使って目的を達成する」というベンチャースピリットに溢れていると思う。登場人物たちの学問に対する情熱を、全て一身に受けた主人公だからこそ、ここまで出来たのだと思う。



魅力あふれる登場人物たちの群像劇

「鋭さのあまり、収まる場を持たず、流浪する思いで生きてきたのだ」

算術の天才はこう言うが、同時に「わしには、手が届かぬ」とも伝え、その数理を全て主人公に託す。最近、人にはやはり、人それぞれの天分や役割というものがあるのだと実感しているので、このシーンには感極まるものがあった。

そして主人公に最後に伝える。

「授時暦を斬れ」

誤っているシステムを過去に葬ること……それが新時代の武士に求められた役割なのだ。

「精進せよ」

この歳になって、文中に幾度か出てくる、この言葉が非常に心に響く。

「天に手を触れようと言うのです。生涯をかけねば届きはしませぬ」

主人公のこの台詞は、正に『生涯をかけてやるべきことを決めた』身には、DNAの核にまで深く染み込む言葉だ。

必至。

……必ず至る。

天を我が手で詳らかにするためには、それ相応の『覚悟』がいる。この「必至」という言葉は、その覚悟がにじみ出たいい言葉だと思う。

最後に

社会が長期に安定し、そこから再び変化しようという時代には、非常に大きなエネルギーを必要とする。さらにそのエネルギーは、旧時代の『経済』よりもさらに進化した新しい量子時代における『意志』の力によってもたらされると思っている。

以前にも書いたが、結局江戸時代の終わりは、外圧である「黒船」によって行われた。果たして今回はどんなきっかけで変化を迎えるのだろうか。米中バランスが崩れそうな今、もしかしたらそれは中国なのだろうか……。

さて、最後にこの小説のあとがきを書いている養老孟司氏の言葉の一節を引用することにして締めようか。

『江戸という時代は、人間の才能を掘り起こさないとやっていけない時代だったのである』

……これも現代と似ていると思っているのだが、どうだろうか。

 

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